忘れえぬ光景

ミーハー礼讃

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 谷崎潤一郎 『陰翳礼讃』


高校時代、国語の授業で少しだけ谷崎のことを知ったのですが、
耽美派ということで傾向的にも、きっと自分が一生関心を持つことのない作家だろうと強く思ったことを覚えています

それから長い月日が過ぎ、時は2015年
没後50年ということで、「芸術新潮」他さまざまな場所で彼のことが取り上げられていました

そうなると、ミーハーな心は途端に彼のことが気になるように
とはいっても、初めから妖艶な小説に手を伸ばすのはあまりに刺激が強い気がして、手始めに随筆集である本作を手に取ったのでした

読んでみると、熱烈な谷崎ファンがいることがよくよく分かりました
ものの美しさを堪能する術をこれほどまでに熟知する人はそういないのでないかと思わされます

たとえばこれは、漆器や、そこに施される蒔絵の美しさを語った部分

・・・古えの工藝家がそれらの器に漆を塗り、蒔絵を画く時は、必ずそう云う暗い部屋を頭に置き、乏しい光りの中における効果を狙ったのに違いなく、金色を贅沢に使ったりしたのも、それが闇に浮かび出る工合や、燈火を反射する加減を考慮したものと察せられる。つまり金蒔絵は明るい所で一度にぱっとその全体を見るものではなく、暗い所でいろいろの部分がときどき少しずつ底光りするのを見るように出来ているのであって、豪華絢爛な模様の大半を闇に隠してしまっているのが、云い知れぬ餘情を催すのである。そして、あのピカピカ光る肌のつやも、暗い所に置いてみると、それがともし火の穂のゆらめきを映し、静かな部屋にもおりおり風のおとずれのあることを教えて、そぞろに人を瞑想に誘い込む。もしあの陰鬱な室内に漆器と云うものがなかったなら、蝋燭や燈明の醸し出す怪しい光りの夢の世界が、その灯のはためきが打っている夜の脈搏が、どんなに魅力を減殺されることであろう。まことにそれは、畳の上に幾すじもの小川が流れ、池水が湛えられている如く、一つの灯影を此処彼処に捉えて、細かく、かそけく、ちらちらと伝えながら、夜そのものに蒔絵をしたような綾を織り出す。・・・

「漆器って、華やかすぎてなんだか苦手」
と思っていた己の浅はかさを思い知りました

ともし火の穂のゆらめき
畳の上に幾すじもの小川
夜そのものに蒔絵をしたような綾…

読者をたちどころに美の世界に誘う言葉たち
「陰翳礼讃」は昭和8年に雑誌に掲載されたようですが、時を経ても微塵も色あせないということも驚異的です
こんなに陶然とした気分になる随筆は初めて…

やはり、彼の小説にも手を出してみるべきだと感じました
時にはミーハー精神も役に立つものですね

本当に美しい世界を見せてくれる本との出会い
珠玉の一冊です



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