時事評論

世界の内村航平

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 世界の内村航平・長崎県

 日本人五輪レジェンド  



 20160817 現在


 リオ五輪の競技を見ていると、世界のトップレベルで勝つことがどれだけ大変なことかを思い知らされる。

 男子テニスで日本選手として96年ぶりのメダル獲得という快挙を成し遂げた錦織圭の3位決定戦がそうだった。相手はテニス界に君臨するBIG4のひとり、ラファエル・ナダル(スペイン)。4大大会を制すること14回。8年前の北京五輪の金メダリストでもある(ロンドン大会はケガのため欠場)。錦織はこれまでナダルと10回戦って1勝しかしていない。錦織にとってナダルは、ぶつかってもぶつかっても跳ね返される分厚い壁だった。

 つけ入る隙があるとすれば、ナダルの疲労だ。ナダルは今大会、ダブルスにもエントリーしていて、3位決定戦の前々日にその決勝を戦って金メダル獲得。前日にはシングルスの準決勝でデル・ポトロ(アルゼンチン)とフルセットの激戦を行ない逆転負けしている。一方、錦織はマレー(イギリス)にストレート負けしていて疲労度は少ない。そのくらいのアドバンテージしかないと見られていたわけだ。

 しかし、試合は錦織のペースで進んだ。第1セットを6-2で取ると第2セットも5-2でリード。これまでの流れから見ると、残す2回のサービスゲームを落とすとは思えない。「こんなにあっさり勝っちゃっていいの?」と思ったものだ。

 ところが、ここから試合の流れが一変する。瀬戸際まで追い込まれたはずのナダルは、実力者の凄みを見せつけるようにポイントを重ねていく。対する錦織は、96年ぶりの重みがあるメダルがもう少しで手に入るという意識からか、動きがぎこちなくなり、ミスを連発。逆転を許しタイブレークも落として第2セットを落としてしまった。

 試合の流れは完全にナダルのものとなり、逆に錦織の方が瀬戸際に追い詰められた。しかし、ここでまたどんでん返しが起こる。第2セット終了後にトイレットブレークがとられ、ここで錦織はウエア一式を着替えるなどして気持ちを切り替えたそうだ。そして始まった第3セットでは本来のプレーを取り戻す。一方のナダルは流れをつかんだはずなのに、その通りに試合が運べないことに焦ったのか、ミスが出始めた。その結果、第3セットは6-3で錦織が取り、銅メダルを獲得した。

 それにしても二転三転する試合の流れにはハラハラしたし見ごたえもあった。世界のトップで戦う選手に実力の差はほとんどないし、ほんの少しの心の動きやちょっとした運によっても勝敗は分かれるわけだ。これはテニスに限らず他の競技にもいえること。とくに五輪は4年に1度であり、国の代表という重みも加わる。選手の勝負にかける思いは強く、その分、ドラマチックなシーンが生まれるのだろう。だからこそ五輪は見る者を熱くさせるのかもしれない。


 体操界の内村航平 フェルプスやボルトに並ぶ


 そんな紙一重の厳しい勝負が行われる五輪でも勝ち続ける絶対王者はいる。その代名詞的存在が競泳のマイケル・フェルプス(アメリカ)と陸上短距離のウサイン・ボルト(ジャマイカ)だ。

 フェルプスは五輪史上最多の金メダル獲得者だ。自由形や個人メドレーなどで2004アテネ大会で6個、2008年北京大会で8個、2012年ロンドン大会で4個、そして今大会の5個を加え、計23個の金メダルを獲得した。金メダル獲得数第2位はカール・ルイスら4人が記録した9個。種目が多い競泳の選手だから実現できた記録ともいえるが、それにしても世界一になるのは大変なわけで、その強さは群を抜いている。そんなことから「水の怪物」、「最も偉大なオリンピック選手」などの異名を持つ。

 ボルトは北京大会、ロンドン大会と2大会連続で100m、200m、4×100mリレーの3冠を達成。今大会もすでに100mで優勝しており、3大会連続3冠の記録を作る可能性は十分ある。また、100mでは9秒58、200mでは19秒19という驚異的な世界記録も保持している。

 こうした実績と圧倒的存在感から、フェルプスとボルトはすでに五輪史上に残る伝説的アスリートになっているわけだが、体操の内村航平も、このふたりと同等の評価をし、リスペクトしている人が世界にたくさんいるらしいのだ。

 それをうかがわせたのが、男子体操個人総合で内村と金メダルを争ったオレグ・ベルニャエフ(ウクライナ)の発言。

「(内村)航平さんは体操界のフェルプスやボルトのような存在。一緒に戦えるだけで幸せなんだ」と語ったのだ。

 個人総合の内村とベルニャエフの金メダル争いは五輪体操史に残る名勝負といえるだろう。5種目目の平行棒が終わった時点で1位ベルニャエフと2位内村には0.901点差がついており、逆転は難しいと思われた。6種目目の鉄棒で内村は難易度の高い離れ技を4つ成功させる完璧な演技で得点は15.800。ベルニャエフも難易度こそ内村に及ばないが、ほぼ完璧な演技をした。しかし、得点は14.800。わずか0.099点の差で内村が逆転優勝したのだ。ベルニャエフも自分の得点が表示され、逆転される点数だったことを知った瞬間は両手を広げ「なんで?」という表情を見せたが、すぐに内村に歩み寄り、優勝を祝福した。

 そしてメダル授与式後の記者会見では内村を称賛し続けた。

「私は航平さんの後を一生懸命追ってきました。このレベル、この伝説の人物と競い合えるのは凄いこと。若い選手はみんな航平さんに憧れ、彼のような演技をすることを夢見ているんです」

 そして、どのくらい凄いと思っているかの例えとして「体操界のフェルプスやボルトのような存在」と表現したのだ。

 柔道のリネール、女子レスリングの吉田沙保里も「五輪絶対王者」

 銅メダルのマックス・ウィットロック(イギリス)も「彼の演技はみんなのお手本。私はその姿を何年も憧れの目で見てきました。今日の鉄棒の演技はクレイジーという言葉を使うしかありません」と語った。逆転は当然というわけだ。

 また、現役の選手ではないが、1964年東京大会と1968年のメキシコ大会の女子個人総合を連覇した伝説的選手ベラ・チャスラフスカさんも「内村さんの美しい体操が大好き。応援している」と語ったという。

 日本人なら内村の偉大さを知らない人はいないだろう。個人総合で絶対的強さを見せ、北京大会で銀、ロンドン大会で金、今大会も金メダルを獲り、団体総合でも中心選手として金メダル獲得に貢献した。世界選手権でも前人未到の6連覇を果たしている。だが、世界から、これほどの評価を受けているとは想像できなかったはずだ。

 確かにフェルプスやボルトとは与える印象が異なる。競泳と陸上短距離はシンプルで分かりやすい競技だ。そこでふたりはケタ違いの実力を見せ、フェルプスは人類で最も速く泳ぐ人、ボルトは最も速く走る人ということで、世界中の人に驚きを与える。その点、内村は「体操で」という枠がつくわけだ。

 他の競技でも絶対的な強さを見せる王者はいる。柔道のテディ・リネールと女子レスリングの吉田沙保里だ。リネールは100キロ超級でロンドン大会、リオ大会と連覇。世界選手権でも8個の金メダルを獲得している。

 吉田沙保里も別格の強さを持つ。五輪では55キロ級でアテネ、北京、ロンドンと3連覇し、今大会で4連覇の可能性も大。世界選手権は2005年から11連覇中だ。

 ただ、やはりふたりとも「柔道」と「女子レスリング」という枠の中の王者であり、世界の多くの人が知っていて憧れる存在というわけではないだろう。

 ただ、体操は五輪の中核を成す重要競技だし、難易度の高い技の凄さや美しい演技は見る人の多くを無条件で感動させる。我々の想像を超える世界の人たちが、内村のことを知っていて、リスペクトしているのではないだろうか。「人類で最も美しい体操を見せる選手」として。




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