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日向寒蘭 「高千穂」

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2016 00 寒蘭 日向寒蘭「高千穂」




 日向寒蘭 「高千穂」


日向寒蘭の覆輪種の古典的名花、「高千穂」のご紹介です。
 
この蘭は明治初年に宮崎県児湯郡都農町にある「尾鈴山」東山麓で、地元の木和田村の河野と言う住人が最初に発見したもので、光沢の強い濃緑色で、幅の広い硬質の中立ち葉の縁に、天冴えの白大覆輪がくっきりかかる悠然とした男性的な葉姿の逸品でした。

当時この覆輪蘭を、地元では「縁取蘭」(フチトリラン)、とか「ヘイトリ」、「ヘットリ」と呼び、村人達は我勝ちに山に押し寄せて、山麓斜面の縦 40m・横30mの地域から数十株の異なった覆輪種が次々と発見され、中でも僅か30㎡の本坪”桜坪”からは最上柄の蘭が出て、その数は昭和30年代までに数千株に達したという。

桜坪は数十の小さな坪からなり、この中には絶坪もあるが、まだ毎年芽を出す坪もあり、その分布を経験豊かな古老は熟知して名人級ともなれば誰も知らない専用の「秘坪」を持っており、昭和30年代の都農町に在した金子老人もその一人で、毎年上柄物を何本も採り、地元の自称、大・小の天狗達に地団駄を踏ませたものです。

このように局限された地に長年に亘っての入山で、この坪の地形は原形を留めない程に変貌し、現場は宛ら山中の開墾畑といった観を呈しそのピークの昭和10年当時、都農営林署の出した入山禁止の制札も、さして効果はなく、その30年後に土佐の「西谷山」でも、同じ歴史が繰り返されたのは良く知られるところです。

一方この産地に近い村落には「ヘットリ」専門に蒐集している人が多く、小苗も含め氏神様の樹木下、庭隅箱鉢、ウト鉢で植えているのを換金目的での盗難も多く、外部の町からの半プロ、山で働く伐採人や林道の工事人の小遣い稼ぎ、更に栽培家の子弟を加えた広範囲の盗難で大量に県外へ流失した事件も発生しています。

また盗難ではありませんが、この蘭に纏わる悲喜劇も多く、この蘭を丹精していた父親の死後、六百余株に及ぶ蘭を巡って兄弟の遺産争い が起こり、こと面倒と癇癪を起こした弟が、分家した兄への面当てに見事な株物の「ヘットリ」を鉢から全部抜き出して鎌でズタズタに切り刻んだと言う悲しい実話例も残されています。

さて、この覆輪蘭、「ヘットリ」が「高千穂」と呼ばれるようになったのは、昭和12,3年頃からで、当時、この蘭を最も多扱っていた、都城市の「堀之江佐衛門」氏も命名者が分からないまま、昭和16年4月「日満華蘭蕙大展覧会」に、この寒蘭の出品で入賞され、翌日著名な東京蘭 界の元老、「新井仙之助」※翁をその蘭を携えて訪ねます。

新井翁は既に故人となっておられ、夫人はその蘭をつくづくと眺めながら、これは主人が生前九州に寒蘭の視察に行った折、日向の田舎に「ヘットリ」があったのを持って帰り、無名では仕方がないと、日向には天孫降臨の高千穂の名峰がある事からそれに因んで、昭和7年頃に「高千穂」と命名した蘭だと改めて聞かされました。

「高千穂」は恐らく最も歴史の古い覆輪寒蘭ですが、残念ながら今ある殆どの蘭は当初のものではなく、土佐の覆輪物の「南国」とは双璧で良く比較されますが、「高千穂」の花は反転し易く虎尾咲きで、むしろその葉性に特性を具え「南国」はやや落肩咲きながら覆輪が入る花により優れた長所を持つと評価されています。


 ※:明治時代の蘭の一大隆盛期から、廃れ始めた明治末期から大正にかけて、政界一の愛蘭家、「大隈重信」侯は、このままでは、蘭栽培法など後世に伝わらな なる事を憂い、中外新論社長「栗原彦三郎」氏(のち国会議員)に蘭会の創立を命じ、当時の帝都蘭界においての栽培に精通する唯一の生存者として知られた 新井翁が実務世話役に任命され、麹町の自宅に事務所を置き、大正9年に「大日本蕙蘭会」を組織、我国蘭界を復興させた陰の大功労者です。




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 参考文献:

・「原色東洋蘭 蕙蘭・寒蘭」 鈴木助三 他 立風書房 昭和50年) 
・「寒蘭譜」 笹山三次 加島書店 (昭和37年) ・「東洋蘭柄物譜」 笹山三次 加島書店 (昭和39年) 
・「東洋蘭の栞」 小野寺員一 他 日本愛蘭連合会 (昭和35年)

 
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