雑学曼陀羅

セイヨウタンポポ

 ←植物の畏るべき知性 →「雑草」の生存戦略
2017 d セイヨウタンポポ




 セイヨウタンポポの戦略


セイヨウタンポポ (Taraxacum officinale F.H. Wigg.) はユーラシア原産のタンポポの仲間で、現在は世界の温帯・暖帯に広がっています。日本には、明治初年、札幌農学校の教師ブルックスが野菜用に北米から種子を入れて栽培したものが野生化したと言われているようですが(朝日週刊百科「世界の植物」)、そういうことがなかったとしても、この繁殖力が盛んな植物は、きっと日本に入って来ているでしょう。

属名のTaraxacum は、ギリシャ語の「苦痛」と「いやす」の複合語だそうで(「世界の植物」より引用)、薬用植物として多く使われたための命名、種名officinaleも「薬用の」の意味です。タンポポを英語でdandelion(ダンディライオン)と言いますが、これはフランス語由来の「ライオンの歯」の意味。ダンディーなライオンではないのですね。そしてセイヨウタンポポは英語で、Common dandelion、すなわち普通のダンディライオンです。

セイヨウタンポポは変わった性質をもっています。その一つは、一年中花を咲かせ、種子をつくること。昆虫のほとんど活動しない冬でも、ちゃんと花が咲いて種子をつけます。無配偶生殖 (apomixis) によって種子をつくることができるからです。つまりこの場合、種子をつくるために、有性生殖を必要としないのです。

植物の花は通常、雄しべの葯の中の花粉母細胞が減数分裂を行って花粉をつくり、また雌しべの子房の中には、将来種子となる胚珠があり、胚珠の中の胚嚢母細胞が減数分裂を行って胚嚢をつくります。雌しべが受粉すると、花粉管が雌しべの組織内を通って、胚嚢に達し、受精が成立します。

例えば、日本のタンポポの在来種であるカンサイタンポポは8対の染色体をもっています。すなわち染色体数は16本(二倍体:2Xで表す)です。減数分裂では、細胞分裂の際、対をなす染色体がそれぞれ別々の細胞に分かれるので、花粉や胚嚢の中の核は、8本の染色体から成っています(半数体:Xで表す)。

胚嚢の中には6つの細胞があって、その一つが卵細胞です。また、胚嚢の中心には極核とよばれる2つの核があります。一方、花粉の中には3つの核があります。雌しべが受粉すると、花粉から管(花粉管)がのび、この管は胚嚢に達し、花粉の中の3つの核のうち、2つが胚嚢に入り、その1つは卵細胞の核と融合し、また1つは2つの極核と融合します。その結果、卵細胞の核の染色体数は16本(2X)となり、細胞分裂を繰り返して胚となります。また極核と花粉と核との融合で3Xになった核はその後の分裂で、胚乳をつくります。このようにして、正常な種子ができます。


2017 d セイヨウタンポポa


一方、セイヨウタンポポでは、多くの個体が三倍体(3X)、すなわち染色体数が24なのです。そしてどういう訳か、無配偶生殖 (apomixis) で増えるのです。無配偶生殖にはいろいろな型がありますが、セイヨウタンポポの場合は、胚嚢母細胞が減数分裂を起こさずに胚嚢をつくり(複相胞子生殖 diplospory)、胚嚢は受精することなしに種子をつくるのです(単為発生 parthenogenesis)。この複相胞子生殖を制御する遺伝子は優性の1遺伝子によるという説 (Richards 1970; van Dijk & Banx-Schotman 2004)と劣性の1遺伝子によるという説 (Mogie 1992) があります。生物の生殖に直接関係する減数分裂という重要な生命現象をストップさせる遺伝子や遺伝子産物の構造や機能はどのようなものでしょうか。興味津々です。単位発生を制御する遺伝子についても、研究がなされているようです。

(注:「複相胞子生殖」という訳語はなんだか分かりにくいですね。「diplospory」は「二倍性胞子形成」という意味です。種子植物で胞子とは、減数分裂直後の、胚嚢をつくる細胞(半数体)のことです。二倍性の植物でdiplosporyが起これば、二倍性の胞子ができる訳です。上の場合は例外的に、もとが三倍体の植物ですから、胞子は三倍体になります。現象としては二倍体でも三倍体でも同じなので、この場合でもdiplosporyという言葉を使います。)

セイヨウタンポポは、このように受精しなくてもどんどん種子をつくることができ、また、1年中種子をつくるので、その強い繁殖力によって、在来のタンポポとの競争に圧倒的な勝利をおさめているように見えます。

でも、無配偶生殖で増えるだけならまだいいのです。実は、セイヨウタンポポは授精能力をもつ花粉をつくることができ、在来のタンポポと雑種をつくるらしいのです。農業環境研究所の研究チームは、タンポポのDNAマーカーによるセイヨウタンポポと在来種の間の識別法によって、セイヨウタンポポと見なされた844個体を調べたところ、85%がセイヨウタンポポと在来種との雑種で、わずか15%が純粋なセイヨウタンポポであったと報告しています(農業環境研究所ホームページより;芝池博幸 「雑種タンポポの識別と全国分布」農環研ニュース No. 57 2003年)。

セイヨウタンポポの花は総苞の外片が下向きにそり反っているので、カンサイタンポポやカントウタンポポなど、在来のタンポポと容易に区別がつくのですが、上記のような雑種タンポポの多くは、やはり総苞の外片が反り返っているのだそうです。今ではもう、総苞外片が反り返っていても、セイヨウタンポポと断定できないという訳です。なんとよべばいいのでしょうか。

セイヨウタンポポは上記のように、主として無配偶生殖によって増えてゆきます。この場合、遺伝的構成に関して、子は母植物と全く同一です(突然変異を除いて)。そして同じ遺伝子構成は、さらに子から孫に伝えられ、その集団がどんどん広まって行くことになります。ところが一方で、同種または多種との交雑によって、多様な遺伝的構成が作られて行きます。セイヨウタンポポにはまた、自家不和合性があって、自家受精を避けているということも聞きます。これもまた、遺伝子構成の多様化を進める戦略と思われます。

自分たちの勢力を広げ、自分たちの遺伝子を後代に伝えて行こうとする恐るべき戦略。日当りのよい土手でのんびりと日向ぼっこをしているように見えるこの小さなタンポポ、その秘めたる力はただものではありません。



スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 愛娘 Erika
もくじ  3kaku_s_L.png やきもの
もくじ  3kaku_s_L.png 余白の人生
もくじ  3kaku_s_L.png 忘れえぬ光景
もくじ  3kaku_s_L.png 文学・芸術
もくじ  3kaku_s_L.png 雑学曼陀羅
もくじ  3kaku_s_L.png 時事評論
もくじ  3kaku_s_L.png 教育評論
もくじ  3kaku_s_L.png 書画・骨董

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【植物の畏るべき知性】へ
  • 【「雑草」の生存戦略】へ