余白の人生

ニンゲンは真と贋を共有する

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zh 『永仁2(1294)年』銘を持つ瓶子1対






 「永仁の壺事件」  

  唐九郎のあそび心




人間国宝(無形文化財)の加藤唐九郎(1898~1985)が、なぜ古陶を巡る贋作事件(1960年永仁の壺事件)に関わったのか‥目的はなんであったのか?

わたしは、古い陶器が好きで、六古窯のやきものを中心に、各地の美術館・博物館・資料館で多くの古陶(甕・壺・茶碗など)を見てきた。

古陶には、古美術品(骨董)としてずいぶん高価なものもあるが、そもそも昔の人たちの生活道具(日用品)として、当時の窯元で働く無名な職人たちが、土を練りロクロを回し、登り窯で焼いて生成したもので、普段の暮らしに使いやすいよう自然に創りあげた容器である。

古陶がもつ「用の美」に、茶人や大名・数寄人たちが心奪われ、茶の湯の道具として見立て、逸品を得ると銘をつけ桐の箱に入れて、後生大事と身近に置いて愛でてきた。

加藤唐九郎は、稀代の名匠(陶工)であり、真摯な陶器研究家である。
彼が、編纂した原色陶器大事典には、陶器のすべてが網羅されており、その内容たるや半端ではなく、驚嘆すべき質と量でである。

陶器を知りつくした知識と陶器への情熱、求道者でないと決してできない見事な大作を生み出す。
加藤唐九郎は、土を知りつくし弄りつくして暮らし生きてきた人で、人物も相当ユニークだったろうと推察したい。

当時すでに人間国宝(無形文化財)の加藤唐九郎は、1960年永仁の壺贋作事件渦中の人として世の中の批判を一身に浴びている。

永仁二年(1294)と銘のある瓶子(へいし)が、瀬戸の古窯跡から発掘され、鎌倉時代の古瀬戸であるとして国の重要文化財に指定された。

この指定を推薦したのが、当時文部省にあって古陶磁研究の専門家で第一人者でもあった小山富士夫(1900~1975)である。

この古陶の真贋について、美術界・骨董界がマスコミを巻き込み騒ぐ中、加藤唐九郎の長男峰男(当時まだ十代)が、瓶子(へいし)は自分が作り、父唐九郎が銘を入れたものだと名のり出た。

加藤峰男は、その後父唐九郎と対立し、名前を岡部嶺男と変え陶芸家となっている。
驚くのは、当時まだ十代の彼が、真贋で専門家を惑わすくらい父親ゆずりの作陶技術をすでにもち、早熟な名陶工であったということである。

加藤唐九郎は‥永仁の壺(瓶子)は、自分が作ったと主張し、以後一切口を閉ざす。

これにより人間国宝(無形文化財)の称号は剥奪されるが、そんな風評に我関せずとお構いなく「無一物」と号し、自らの作陶に専念し志野・唐津・織部・黄瀬戸傑作を次々に残し、ライフワークの原色陶器大事典の編纂に没頭し、生涯を終えた。

当時すでに人間国宝であった加藤唐九郎には、陶芸界の重鎮として地位も名誉もコレクターも数多くいたので、お金のために古陶の贋作を作る必要は、まったくなかったはずである。

では、なぜ鎌倉時代の永仁の壺(瓶子)の贋作に銘を入れ、世に送り出したのか?
時代を超えた名陶を知り、作陶できる技量をもった稀代の陶工加藤唐九郎の悪戯ではなかのだろうかと推理してみる。

古陶の贋作の出来映えを茶目っ気たっぷりにおもしろがり、自分がその道でNo1だと思う驕った心理は、真相を突き止めさせようとゲームに挑む犯罪者の心理に似ている気もする。


00 a a a 日月壺 帰依瓶 比較a


古美術骨董の世界で一流の目利きや数寄人は、真贋の間にある「あやうきにあそぶ」者のリスクをたのしむ心理が働く。贋物をも弄(いじ)られない者には、本物も分からない。

値札や箱書き・鑑定書で真贋論争をするなどは、金銭欲にかられて自分の審美眼を他人に預け委ねることと同じで、もし値札・箱書き・鑑定書などが真っ赤な贋作(精巧な贋物)であったら、落胆失望してしまうだろう。やはり自分の眼で選んだものが、本当に美しく価値ある本物と言える。

自分の好き=数寄を育てるためには、真贋構わずたくさんの現物を見ることに尽きる。
その中ににはつまらない真作・本物もあれば、すばらしい贋作・贋物もあることが、自ずと分かってくる。

加藤唐九郎の作陶した贋古陶が他にもあり、古美術骨董の世界にあるとしたら愉快というほかはない。
美術館の学芸員や大金をはたいたことのない研究者に、その道を極めた人物の遊び心などわかるはずがないだろう。高額であれば本物である、という論理は審美眼のない人間の妄想である。

美の世界など、値段が付いて有名になってから評価されることで、凡人の頭ではついていけない。



00 a a a 日月壺 帰依瓶 比較


小山富士夫も永仁の壺贋作騒ぎの責任をとり文部省関係の仕事を辞め、この事件について一切沈黙してしまった。

彼の偉業は、出光美術館(丸の内)の陶片室に所蔵されている日本・中国・朝鮮をはじめ世界の古窯跡から発見された膨大な陶片コレクションにあり、その古窯発掘と収集は彼の手による。

日本のやきものでは、瀬戸・美濃・唐津・肥前磁器など代表的な古窯跡の陶片を収蔵している。
古代エジプト・中近東の古代遺跡から出土した中国・東南アジア古窯の陶片もあり、古代交易の意外な広がりの歴史を実感することができる。

後世に名を残す偉大な人物は、やはり、どこか凡人とは違っている。

最近は、地球上のニンゲンに強欲に駆られた、あそび心のない贋物が増えすぎて困ったものだ。




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