忘れえぬ光景

怪石 霊璧石

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文房具飾り 霊壁石
「文房飾り 」:右端が奇峰・怪石に見立てた霊壁(れいへき)石


sui Lingbi  Ying stones 3s10水石飾り


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かって、中国の友人に譲ってもらった唯一の霊壁石 高35cm:4.5kg


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 中国奇石・怪石の魅力

古代中国の文人は珍しい石をこよなく愛した。
日本の水石文化の源流とも言える。

隠者(仙人)の隠れ家としての石室『洞庭』や『地肺』などの大洞窟に関する伝承、あるいはユートピア願望といった様々な要素が介在していたに違いない。理想郷が名山勝地の奥深くに実在すると信じられた神仙思想、永生者達の棲む別天地のことである。

中国の士大夫たちは、大きなものは庭に、小さなものは机辺に置くことによって、峨々たる山岳や幽邃な厳穴に思いを馳せるとともに、自らの日常世界を洞天化しようとしたのであった。


 怪石の評価基準

銘石に拝跪した北宋の米芾(べいふつ)は、過去の文献や収集品と彼自身の審美眼から石の美的鑑賞法を確立した。彼は石の鑑賞において最も重要なのは痩、皺、漏、透の4つであると考えた。

痩:細を意味する。そして石に関しては高雅な、すらりとした単独直立を意味する。

皺:しわを意味する。そしてきめ豊かで、繊細に窪んだ線で出来た溝、形状にリズムと変化を与えるおだや  かな隆起線を指す。これ等によって小さい石が山岳や山脈の地形の特徴を体現する事が出来る。

漏:道筋を意味する。石の洞窟やへこみが石の内部であたかも道が広がる様に互いに通じ合っている。

透:穴と開放部を意味する。風と月光がこの開放部を通り抜ける事が出来る。
  以上の語義は、時代・人によって異なる。

 日本の水石の基準や鑑賞法とはいささか異なるが、ほぼ同じと考えてよい。


中国書画骨董びいきの私は、日本の水石の前に奇石・怪石に魅せられた。
私のつたない表現力では、中国怪石の魅力を伝えることができない。

中国の士大夫(文人)たちが石に取り憑かれた話を紹介する。


 いろんなものを愛撫し尽した果が、石に来るといふことをよく聞いた。屠琴塢は多くの物を玩賞したが、一番好きなのは石だつた。一生かかつて奇石三十六枚を貯へ、それを三十六峰に見立てて、一つびとつ凝つた名前をつけ、客があるとそれを見せびらかせたものださうだ。鄭板橋はまた好んで石を描いたが、その石といふ石がみんな醜くて、ずばぬけて雄偉なのには、見る人がびつくりしたといふことだ。東坡が『石は文にして醜だ。』といつたのを思ひ合せると、石の醜さを描いたり、愛したりするところに、ほんたうに石を愛するものの本領が見えてゐる筈だ。

 宋代の書家として名声を馳せた米元章は、誰よりもすぐれて石を愛した人であつた。淮南軍の知事になつたとき、役所の庭にふしぎな、醜い形をした大きな石があるのを見て、大よろこびによろこび、早速衣冠をととのへてそれにお辞儀をした。そして
 『兄弟。あなたにお目にかかつて、こんな嬉しいことはありません。』
 といつて、石を兄弟扱ひにしたものだ。この大げさな振舞が上役人に聞えて、元章はたうとう役を罷められてしまつたが、彼が石に対する愛情は、いきなり声をあげて


z 读碑窠石图 李成:( 919—967年),五代宋初山水画大家


 『兄弟……』
 と、懐しさうに呼びかけないではゐられなかつたのに見ても、それが如何に深いものであつたかが解るだらう。

 霊璧は変つた石を産するので名高いところだが、米元章はそこからあまり遠くない郡で役人をしてゐたことがあつた。大の石好きが、石の産地近くに来たのだから堪らない。元章は昼も夜も石を集めては、それを玩んでゐるばかしで、一向役所のつとめは見向かうともしないので、仕事が滞つて仕方がなかつた。ところへ、丁度楊次公が按察使として見廻りにやつて来た。楊次公は、元章とは眤懇のなかだつたが、役目の手前黙つてもゐられないので、苦りきつていつた。

 『近頃世間の噂を聞くと、また例の癖が昂じてゐるさうだね。石に溺れて役向きを疎にするやうでは、お上への聞えもおもしろくなからうといふものだて。』

 米元章は上役の刺(とげ)のある言葉を聞いても、ただにやにや笑つてゐるばかしで、返事をしなかつた。そして暫くすると、左の袖から一つの石を取出して、按察使に見せびらかした。
 『といつてみたところで、こんな石に出会つてみれば、誰だつて愛さないわけにゆかないぢやありませんか。』
 楊次公は見るともなしにその石を見た。玉のやうに潤ひがあつて、峰も洞もちやんと具つた立派な石だつた。だが、この役人はそしらぬ顔ですましてゐた。すると、米元章はその石をそつと袖のなかに返しながら、今度はまた右の袖から一つの石を取出して見せた。

 『どうです。こんな石を手に入れてみれば、誰だつて愛さないわけに往かないぢやありませんか。』
 その石は色も形も前のものに較べて、一段と秀れたものだつた。米元章はそれを手のひらに載せて、やるせない愛撫の眼でいたはつて見せた。楊次公は少しも顔色を柔げなかつた。

 米元章はその石をもとのやうに袖のなかに返したかと思ふと、今度はまた内ふところから、大切さうに第三の石を取出した。按察使はそれを見て、思はず胸を躍らせた。黒く重り合つた峰のたたずまひ、白い水の流れ、洞穴と小径との交錯、――まるで玉で刻んだ小天地のやうな味ひは、とてもこの世のものとは思はれなかつた。

 『どうです。これを見たら、どんな人だって、愛さないわけにはゆきますまい。』
 嬉しくてたまらなささうな米芾(米元章)の言葉を、うはの空に聞きながら、楊次公は呻くやうに言つた。
 『ほんたうにさうだ。私だつて愛する…………』

 そしてすばしこく相手の手からその石をひつ攫(さら)つたかと思ふと、獣のやうな狡猾さと敏捷さとをもつて、いきなり外へ駆け出して往つた。

 門の外には車が待たせてあつた。楊次公はそれに飛び乗るが早いか、体躯(からだ)中を口のやうにして叫んだ。
 『逃げろ。逃げろ。早く、早く……』



芥川龍之介も怪石を賞玩した。
青空文庫に『秋山図』がある。暇があればクリックされたし。


 『秋山図』


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