余白の人生

シャングリラ

 ←竜宮は古代中国の理想郷・蓬莱山 →エンデ  『モモ』  金銭は老化しない
1133㌶あって雲南省元陽でも最大級の棚田。山頂にかけて連なる段々畑は5000段 13
1133㌶あって雲南省元陽でも最大級の棚田。山頂にかけて連なる段々畑は5000段もある。日本文化の源流である。




 シャングリラ(Shangri-La:香格里拉)


 シャングリラとはチベット語で理想郷・ユートピア、中国語で桃源郷のことである。


 1933年ジェームズ・ヒルトンの手になる小説「失はれた地平線」が発表され、1939年フランク・キャプラが映画にした。これが評判になって一般名詞(shangrila)になった。

 同時に、ここに描かれた理想郷がフィクションなのかどうかの候補地探しも始まった。ヒマラヤ山脈周辺には違いないと、チベットやネパール、アフガニスタン東部などがモデルと目されたこともある。

 2002年雲南省政府は、この地がシャングリラであると宣言した。中国には55とも56とも言われる少数民族がいる。雲南省はほぼ日本に匹敵する大きさだが、その地に22から26ほどの少数民族が住む。現地ガイドは52族が住んでいるといったが、統計の取りかたの違いだろう。

 民族として数えるとなると25程度が正しいと思える。しかし、多民族が住んでいるだけでシャングリラを宣言できるはずはない。そこには、道教をはじめとして、仏教(大乗、小乗ともに)、東巴教、回教、キリスト教ほかさまざまな宗教が混在し、各民族が伝統を守って暮らしている。領域がないように見えてきちんとある。そのすべてが平穏裏に共存している。この自然体の自信があっての宣言だろう。


シャングリラ(中甸)、徳欽 - 雲南省シャングリラ(中甸) 徳欽 - 雲南省


 雲南省が歴史に登場するのは、司馬遷の史記第56「西南夷列伝」からである。長江の南に位置しているのだから江南に違いはないが、越や呉が覇権を争った下流地域とは異なり、高峻な雲南省は洛陽や長安(西安)から見ると夷人の住む地だったのだろう。夷とはまるで蛮人扱いである。記述に従うと、前漢の武帝がインド(身毒)への交易ルートを求めて、軍を派遣し当時昆明湖周辺を治めていた(てん)国を臣従せしめたとある。前109年のことである。そのとき呼ばれた民族が、いまの何族に相当するのか判然としない。

 下って三国志には、劉備亡き後、孔明が南方でおきた叛乱を治める話がでてくる。敵役は孟獲(もうかく)、蜀軍に七たび挑み、七たび捕らえられ、その都度孔明に許され、ついに心服する。七擒七放の逸話である。孔明は昆明に軍事拠点を置いた。ここでもこの地の描写にはどこか文化果つるところのイメージがある。


ten 云(雲)南史话(1)——隋唐以前2575496036902940742
云(雲)南史话—隋唐以前 漢倭奴国王印とほぼ同時代に授与された


ten 漢委奴国王の金印
漢委奴国王の金印


 興味深いのは、テンという不思議な文字である。「さんずい」がつくほど、水に親しい民族だったことは、昆明湖周辺の地形から容易に想像がつく。「眞」に「さんずい」をつけてテンと読ませたのは、漢代の為政者だろうが、史記には夷と表記しながら、一方で眞というストイックな文字を使ったのはなぜだろう。

 自国以外の民族に、あまりいい文字を当ててこなかった中国だけに、深読みしたくなる。おそらく、この民族によほど好意を持ったのか、敬意を抱いたのではなかろうか。


香格里拉の歴史香格里拉


 省都昆明市は南方だが、海抜1900米、四時如春の言葉どおりの温暖な気候に恵まれている。雲南省の南方は、ベトナム、ミャンマー、ラオスの三国と国境を接し、西方はチベット、ヒマラヤ山脈につながる。古来から、多民族が自然に集まる環境だった。

 麗江はかつて雲南の茶、チベットの馬の交易の要衝だった。代々この地に暮らしてきたナシ(納西)族は、交易を通じて入ってきた漢族、チベット族だけでなく、近隣の少数民族ペー(白)族、イ族などの諸民族の文化を、抑圧することなく吸収共存してきた。

 さらに、独自の象形文字「東巴」をいまに伝える頑固さもある。ナシ(納西)族に代表される折り合いの良さ、物持ちの良さ、伝統への執着などの民族特性は、雲南省以外あまり他に例がないように思う。これらの民族の血が、多分いくらかは我々にも流れていると考えると、なにかしら心はずむものがある。

 とはいえ、シャングリラの実態は、短期間の旅人が感じるほど美しいばかりであるはずがない。経済発展に取り残される農業、一人っ子政策の歪み、若い世代の都会志向など、問題は山積していることだろう。

 それでも、この雲南には、住んでみたいと思わせる茫洋とした「ゆとり」がある。おそらく太古から雲南の地は来る者を拒まなかったのだろう。受容する器は大きい。その大きさはシャングリラ(香格里拉)の名に恥じない。


 Shangri-La:[1].地上の楽園、桃源郷。[2].秘密基地。


 イギリス生まれでアメリカに帰化したジェームズ・ヒルトン(James Hilton)が1933年に書いた小説『失われた地平線(Lost Horizon)』中の架空の理想郷の名・シャングリラ(Shangri-La)に由来。[2]の意味も小説中のシャングリラがチベット山中の秘密基地でもあったことによる。

 桃源郷は陶淵明の「桃花源記」に書かれた理想郷から、俗世間を離れた別天地。仙境。武陵桃源。

 「桃花源記」は、武陵の漁夫が道に迷って桃林の奥にある村里に入りこむ。そこは秦の乱を避けた者の子孫が世の変遷を知ることなく、平和で裕福な生を楽しんでいる仙境であった。歓待されて帰り、また尋ねようとしたが見つからなかったという故事による。




スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 愛娘 Erika
もくじ  3kaku_s_L.png やきもの
もくじ  3kaku_s_L.png 余白の人生
もくじ  3kaku_s_L.png 忘れえぬ光景
もくじ  3kaku_s_L.png 文学・芸術
もくじ  3kaku_s_L.png 雑学曼陀羅
もくじ  3kaku_s_L.png 時事評論
もくじ  3kaku_s_L.png 教育評論
もくじ  3kaku_s_L.png 書画・骨董

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【竜宮は古代中国の理想郷・蓬莱山】へ
  • 【エンデ  『モモ』  金銭は老化しない】へ