文学・芸術

『怒りの葡萄』 スタインベック

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 『怒りの葡萄』 スタインベック



大学の米文学購読で、楽しい雰囲気の田邊教授の『怒りの葡萄』を受講した。

一風変わったひょんきんな無防備のお人柄だったので印象に残っている。

眠たいクソ真面目な講義より、学生を眠らせない教授法に感心したのを覚えている。

人種のルツボである米国は、今日でも、虐げられた極貧の移民に支えられている。

当時の感想は、その程度のものであった。




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 怒りの葡萄:起


オクラホマの寂しい田舎道を1人の男が歩いてきます。彼の名前はトム・ジョード。幸い、雑貨屋の前に止まっていたトラックに乗せてもらうことが出来ました。運転手に聞かれるまま、自分が殺人罪で刑務所にいたことを答えます。トラックを降りた場所からしばらく歩くと、知り合いのケーシーという元牧師と出会います。彼と一緒に自分の家族の住んでいた農園へ歩いてゆくトム。しかし、そこは誰も住んでいる気配がありません。家に入るとそこに隠れている男がいました。この近辺で農業をやっていたミューリィです。彼によると、このあたりの農家は皆立ち退きを強いられ、トムの一家も伯父の家に厄介になっているとの事。トムが伯父の家にゆくと幸い一家は無事でいました。


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 怒りの葡萄:承


翌朝に一家はオンボロのトラックに家財一切を積み込んでカリフォルニアに向けて出発。身寄りのないケーシーも一緒にゆきます。出発間もなく、祖父が心臓病で他界。仕方なく、家族たちは彼を路傍に埋めます。金も足りなくなり、ろくに食事もできません。そしてカリフォルニアから出てきた人間によると、行ってもいい仕事は見つからないとの事なのです。それでも一家の目的地はそこだけ。カリフォルニアに入るところで祖母まで死にました。


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 怒りの葡萄:転


やっと一家は移民キャンプに到着。貧しい人でごった返しています。そこでは保安官が彼ら貧民を虐待していて、平気で彼らに銃を向けたりします。結局はそこを離れ、一家は別の場所へ。人手を求めている農場を見つけた一家。さっそくそこへ腰を落ち着け、安い賃金で桃の取り入れ作業をやります。しかし、そこで売っている食べ物は高いため、手元には現金が残りません。食事のあと、散歩に出るトム。ケーシーがストを計画している農民たちと一緒にいるところに出くわします。やがて農園の管理側の手がまわってケーシーは殺され、トムはその男を殺してしまいます。


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 怒りの葡萄:結


一家はトムを匿って農園を脱出。そして国営のキャンプにたどり着きます。そこでは今までと違って生活も快適ですが、周りの民営農場の経営者たちが安い労働力確保のためそこを襲おうとします。この計画を未然に防ぐトム。さらに彼は皆への迷惑を避けるため、キャンプを立ち去ります。
翌朝になって綿を摘む作業に出発する一家。しかし仕事はありません。さらに仕事を求めてトラックは走ってゆきます。




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 作品の感想


オクラホマの大地の描写から物語は始まります。赤茶けた土。トウモロコシに降る雨・・・。場面は変わって、あるトラックがヒッチハイカーを乗せてやります。このヒッチハイカーが、物語の重要人物であるトム・ジョードです。

トム・ジョードは主人公と言ってもいいんですが、ジョード一家の面々、特に母親など、それぞれが重要ですし、一家全体が主役と言ってもよいとは思います。主人公らしき主人公がいない小説なんですよ。

この冒頭での、トラックがトムを乗せてやるという行為自体が、物語全体のテーマと大きく関わってくる部分があります。つまりトラックの運転手にはヒッチハイカーを乗せてはならないという規則があるんです。トラックの窓にもヒッチハイカーお断りの張り紙が貼ってあります。

それは会社が決めたもので、いわば〈システム〉の領域のものです。この記事で扱う〈システム〉というのは、個々人の範疇を越えた組織独特の構造やルール的なものととらえてください。誰がなんともすることのできない流れのことです。

運転手がどう思おうと、どうすることもできない。規則は規則なので。ところが、運転手はトムを乗せてやるわけです。迷いながらも乗せてやる。つまり〈システム〉の問題は、〈人情〉のようなものが加わって形を変えます。この物語の中では、〈システム〉と〈人情〉というのは相反するもので、このテーマは何度も繰り返し出てきます。

トムは刑務所から仮釈放で出てきたんです。酒場でケンカして、正当防衛の形とはいえ、人を殺してしまったトム。予定より数年早く故郷に帰ってみると、家には誰もいません。


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オクラホマの大地にはトラクターが走っていて、農民たちを追い出しているんです。農民たちはそんなことをするやつを許せませんよね、当然ぶっ殺してやる! といきり立つわけですが、一体誰を? という問題が生まれてきます。実はトラクターを運転しているのは、農民たちの仲間の1人なんです。

仕事がなくて、それでも幼い子供たちや家族を食べさせてやらなければならない。そこでわずかな賃金で雇われて、トラクターで農民たちを追い出す仕事をしています。つまりトラクターを運転している人を殺しても事態は改善しないんです。また他の人が雇われるだけなわけで。

ではその雇っている人を殺せばいいかというと、その人は銀行に言われてその仕事をしているわけです。じゃあ銀行を潰せばいいかというと、銀行ももっと本部に命令されてやっているわけです。どこまでいっても見えないこの〈システム〉。

おそろしく、不条理のようにも感じられるわけですけど、これって単なるフィクションじゃないですよね。こうした目に見えない不気味な〈システム〉はぼくらの現実世界でもあるはずです。なにかがおかしいという状況があっても、改善するのはすごく難しい、そんな環境。

トムは家族と再会します。家族はカリフォルニアに向かうところだと言うんです。そこは夢のような土地で、果実の収穫などたくさんの仕事があるらしい。一家はトラックで、カリフォルニアに向かいます。トムは仮釈放の身の上ですから、本当はオクラホマ州を出てはいけないんですけど、一緒に旅立つことにします。

家族と一緒に旅立つのが、元説教師のジム・ケーシー。信仰を失ってしまったケーシー。ケーシーはこの物語でとても重要な人物です。ケーシーがなにを見て、なにを考え、どのように行動するかにぜひ注目してみてください。

ジョード家はトムの両親や祖父母、罪の意識を抱えたジョン伯父、トラックに詳しい弟のアルとその他の兄弟姉妹。妹で『シャロンのバラ』と呼ばれるローザシャーン。ローザシャーンは妊娠しています。その夫のコニー。この一行です。

絶望の地を捨て、希望の未来へ向かうという構造は、たとえば『2012』など、いわゆるディザスター・ムービーに似たところがあります。


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旅の途中で、何人かの人間がいなくなります。過酷な旅に耐えきれず死ぬ人もいます。ところが埋葬すらちゃんとはできないんです。墓地にいれるにもお金がかかるわけで、お金を払うとカリフォルニアにはたどり着けない。そして逃げ出す人も出てきます。

そしてようやくたどり着いた希望の地で見たのは、過酷な労働環境でした。それでもなんとか一家団結してやっていこうとするジョード一家。かっとなりやすいトムが問題を起こしそうになった時、ある人物がかばってくれます。その行為がその人物の人生を大きく変えることになります。

巨大な壁にぶつかった時、果たしてどう立ち向かっていけばいいのか。誰にも変えられない〈システム〉の中、ジョード一家はいかにしてやっていくのか。そしてやがて決定的な出来事が起こり・・・。

地味で退屈な話です。延々悲惨な話が続く物語です。それでもたしかに読む価値のある小説です。文章としての読みづらさはさほどないので、ぜひ手にとってみてください。

ところで、トムたちジョード一家には、雇い主という目に見える敵がいました。〈怒り〉をぶつけられる対象。給料を低くし、ストライキを潰し、自分たちだけいい思いをしている雇い主。こうした構造はフランス革命などの、民衆と王様という構造にも似ています。目に見える敵を倒せば救われるという考え方。

ぼくらは一体誰と戦えばいんでしょう? この不況に対する〈怒り〉を誰にぶつけたら? 『怒りの葡萄』はその答えをぼくらにくれはしませんが、もう少し違うなにかを教えてくれます。問題解決の方法ではなく、問題に立ち向かう方法。それはつまり、どうやって生きていくかということです。

広大な大地で生きていく、どんなことがあっても生きていく、そんな家族を描いた小説でした。その姿は力強く、強靭な社会システムの中で勇気と歓びをもらいました。




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