忘れえぬ光景

万葉集に愛された「さなかづら」

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000 さなかずら1 (2)





 2012.11.24 アーカイブ


 万葉集に愛された「さなかずら」


000 さなかずら


午後、やきしめの花材に茶花として愛用する「さなかずら」を求めて、近くの里山に分け入った。

年中行事のひとつである。

今年は時期が遅れた、と心配したが、真っ赤に熟して私を迎えてくれた。一年ぶりの再会である。

春のさくらを愛でる人は多いが、華やかすぎて茶花にはならない。

幽玄や枯淡の美を愛するものには、ふさわしい花としてはほど遠い。

「来年は櫻がみられるだろうか」というより、


000 古銅 青銅王子形水瓶 王子形水瓶 – 第二室 仏教美術 イカリソウ s23 総高14.4cm 胴径6.1cmに縮小


「来年またさなかずらにあえるだろうか」と言う表現のほうが、わたしの性にあっている。

それほどこの植物は、私の心を惹きつけて離さない。

春には可憐な純白の花が咲き、夏には、真っ青な実をつけ、秋には、爛熟した深紅の実へと変身し、冬には、新たな芽だけを残し消えていく。

自然界の植物は悉皆そうであるが、里山にあって、「青春、朱夏、白秋、玄冬」という人の一生を体現する。人里に近い植物のなかでもひときわ目立つ存在だ。

万葉の男女が我が思いを託し、自分のうつし身として歌に詠み込んだのもむべなるかなと感じ入る。


詠み人知らずであるが、万葉集の真葛(さなかづら)を詠んだ歌を二首紹介してみる。



 あしひきの、山さな葛(かづら)、もみつまで、妹(いも)に逢はずや、我(あ)が恋ひ居(を)らむ

(あしひきの) 山さなかずらが 赤く色づくまでも あの娘に逢わずに わたしは恋し続けることでしょうよ。


s-DSCN1137.jpg


 我が背子は 待てど来まさず 天の原 振り放け見れば
 
 ぬばたまの 夜も更けにけり さ夜更けて あらしの吹けば 

 立ち待てる 我が衣手に 降る雪は 凍り渡りぬ
 
 今更に 君来まさめや さな葛(かづら) 後も逢はむと
 
 慰むる 心を持ちて ま袖持ち 床(とこ)打ち払ひ

 現には 君には逢はず 夢にだに 逢ふと見えこそ
 
 天の足る夜を  (長歌)



 解釈

私の旦那様は幾ら待ってもおいでになりません。空を見上げれば夜も更けて闇も一層深まって嵐まで吹いてきました。立ったままで待っている私の袖口に降った雪は忽ち凍ってしまいます。今更にあの人が来るのを待っても私の元には来てくれはしないのに。それでもいつかは来て頂けると心を決めて両袖で二人で休む筈だった床を払い、現実にはもう逢うことは無いと思いながらも、せめて夢にでも貴方に逢うことが出来たら年に一度の天の原の恋人(彦星と織り姫)同士のように満ち足りることができるでしょうに。


歌の作者が、どんな経緯で「背子」に捨てられたのかは、歌の中では全く語られていない。

それはおそらく詠み人にとって、決して触れたくないことなのだろう。

後悔も、反省も、冷え切って弱った心には重すぎる。

二人の間の約束や、楽しい思い出すら、触れずに封印しなければいられないほど辛いものだったのだろう。

いまはただ、自分一人の悲しみに甘く溺れながら、はかない夢にぬくもりを求めたい。

そうして現実に起こったことから目をそらすことによって、傷ついて立ち上がれなくなることを、作者は避けているのであろう。


人ごととは思えない、心に沁みるせつなさが伝わってくる。

「さなかずら」は、当時も今も、炎と燃える女心の抗いがたい情念の象徴である。

それゆえに、炎に焼き焦がれた花器、やきしめ陶に呼応するのかもしれない。

現代人は、このようなきめ細やかな女性のかなしみに気づいているだろうか。

里山に行けば、日本人本来の叙情ゆたかなこころが取り戻せるかもしれない。


saneka17実葛 (さねかずら)

saneka16実葛 (さねかずら)

saneka13実葛 (さねかずら)


 さなかずら(美男葛ともいう)


モクレン科サネカズラ属の常緑つる性の真葛(さなかずら)。枝に粘液があり、江戸時代には男性の鬢(びん)付け油の原料として使われたので、美男葛(びなんかずら)とも呼ばれた。「実(さね)が美しいつる植物(かずら)」の意味。「核葛」とも書く。万葉集には9首載っている。



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