教育評論

孤独の質量は人の数だけ異なり無尽蔵・無限大

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 孤独の質 井伏鱒二の世界



 作中の「私」の孤独を問題にしている点では一致である。井伏の処女作『山椒魚』の「寒いほどひとりぼっちだ!」という孤独感と比較しながら「人間はさびしいものだ、という原罪意識にも似た寂寥感が『屋根の上のサワン』の底を流れている」といい、「サワンに托したわたしの心情の切なさ、サワンとわたしの思い屈した心情の象徴的存在として、一種の人間的哀愁がこめられていることをみのがしてはならないだろう」という。


 「『思い屈した心』『言い表せないほどくったくした心』『くったくした思想』という抽象的リフレインで終わっているのが、一読しただけで気になります。」といい、さらに「その『言い表せないほどくっした心』が、なぜいいあらわせないのか、あるいは、その当時の作者の気持として、とうてい表現できないほど複雑微妙で、厄介なものだったのか、あるいはもっと厖大深刻で危険なものだったのか・・・このことは、私にとってはあんがい大事なことであり、この大事さは、作者である井伏鱒二にとっても、とても大変なことだったことについては間違いのないところです。」といっている。


ところで、同じく「人間は孤独である」「人間は淋しいものだ」といっても、そのなかみは同じではない。
二つのちがった発想が考えられる。


その一つは、絶対的孤独ともいうべき、人間は本来孤独なものである。
生まれながらに背負っている宿命だ。そういう意味での孤独である。


いま一つは、もともと人間は孤独ではない。
しかし、複雑な社会のなかで、自分を生かすためには、他との交渉を断ち切るほかはない。
意識的に孤独になることで、自分のみちを切り開いていくという、絶対的孤独に対して相対的孤独ともいうべきものがそれである。作中の「わたし」の孤独は、そのどちらの発想なのだろうか。



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 『山椒魚』と『屋根の上のサワン』

 
この二つの孤独を具体的にするために、井伏の処女作『山椒魚』(初稿・大正十二年、昭和四年発表)とを比較しながら考えてみた。が、両者とも、絶対的孤独という発想で人間を描いたとすることには疑問が残る。『山椒魚』も『屋根の上のサワン』も、ともに相対的孤独であると考えるべきではないか。

すなわち、山椒魚は、蛙との和解によって鞭撻しあえる相手がえられた。あるいは、えられる可能性をもった孤独であったのではないか。

また、『屋根の上のサワン』の「私」の心境は、山椒魚のそれとくらべれば、かなり複雑である。山椒魚のように和解によって仲間ができる、そういう条件ではなさそうだ。けれども、同じ孤独になやむサワンに代表されるような相手はいた。いたにはいたのだけれど、私とサワンとは、別の生き方をしなければならない状況にある、といっていいのではないか。

右のように、両者とも、対社会との関係で、孤独にならざるをえない状況においこまれていると考える。それは、大正末期から昭和初年という時点で、時代背景をみなおすとき、さらにはっきりしてくる。

 こうした視点をはずして、孤独の問題は考えられない。
 また、『山椒魚』の、和解によって相手をみつけられる可能性をもつ孤独と、『屋根の上のサワン』の「わたし」の、別々の生き方をえらばなければならない孤独のちがいも、この社会の流れのなかに位置づけてみて、はじめてうなづける。

 人の数だけ正しい主張や相容れない意見・生き方があるからこそ、人は孤独の世界の住人にならざるを得ない。そう考えると、孤独の質や量は生きてる人の数だけ異なり無限大に膨らむ。とすれば、孤独の質と量、絶対性と相対性を二元論化し類型化することそのものが無理なことで無意味なことなのかもしれない。

 人と人が理解し合うこと自体が無理なことだ。言葉や理論だけで人がわかりあえる、という思い込みは、行動をしない人間たちの願望にすぎない。人はみな限られた枠や柵内で、かくありたいという妄想や幻想の中に生きている。
 人が希求してやまない愛は、言葉に裏付けされた「行為」からしか生じない。




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