文学・芸術

「幻の大イワナ」 開高健「オーパ」受賞級随筆

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yyy 「幻の大イワナ」1




 「幻の大イワナ」

  開高健「オーパ」受賞級随筆




yyy 「幻の大イワナ」 春はカタクリの絨毯を見ながらの釣りだ


残念ながら、イシコロはイワナを釣り上げた経験はない。

60㎝以上の巨大鯉釣りは、普通の川や堤・溜池でできるので何度も体験した。
油断すると、カーボン製の長い竿が強い引きで持っていかれたり、竿が折れそうになり故意に手放して鯉の体力消耗を待って引き揚げる作戦を経験している。

釣り好きにとって、大物を自分の手で掴むまでの、あのパクパクと心臓が破裂しそうになる、早鐘心拍鼓動と興奮の体験は筆舌に尽くしがたい。

この臨場感溢れる文章を読んで、ひさしぶりにあのエクスタシーが蘇った。


 ☆ ☆ ☆



 『幻の大イワナ』


  山本 光一氏「青空の記憶」より



yyy 「幻の大イワナ」 「イワナ止めの滝」


 「幻の大イワナ」は、昔しマタギをしていたというおじいさんから聞いたことがあった。

熊を求めて山深く入り込んだ滝で、崖から落ちた蛇が泳いでいたら突 然に水しぶきが上がり水底に吸い込まれたと言うのだ。頭に苔が生えているような大イワナであったとか。

その滝のだいたいの場所を聞いて出掛けたのだった。
場所は公開できないが、そこはロープがないと降りれない人を拒絶しているような急峻な谿底にある滝だった。

  昼でも暗いその滝壷は、水煙が霧のように漂い苔むした巨石に囲まれていていた。底が見えないその滝壷の深さはどれぐらいあるのか分からないが、瑠璃色の水面が大きく渦まいていた。

 まるで龍神がいるような神聖な場所である。この地に人が踏み込んだことがあるのだろうか・・・。


yyy 清流 イワナ 源流のイワナは、エサが少ないので蛇まで食べてしまう


 大物釣りの作戦


 大物がかかっても切られないように、竿に1.5号のハリスをとうしで使用した。エサはドバミミズだ。水深がありそうなので道糸は竿より長い8mという作戦で望んだ。

 鉛を重くし滝壺に落としたその瞬間、糸は落ち込みの反対方向に引きずり込まれていった。そして竿は音をたて折れそうにわん曲した。もしかしてとは思っていたが本当に「幻のイワナ」は実在したのだ。焦りとともに足場の急斜面から落ちそうになる。


ここの滝からはもうイワナは登れない「イワナ止めの滝」だ


yyy 「幻の大イワナ」 「イワナ止めの滝」


この滝壺は深いが、そう広い場所ではなかったので竿を手放した、折られないためである。急いで崖から滝壺の下流に移動し、竿が浮かんで来るのを少しの間待つことになる。

 やがて竿は ゆらりと浮かんだ。その竿を拾い、祈るように引いてみると、石にも引っかかったようにびくともしない。逃げられたかと思った瞬間にゆっくりと糸が移動して いるではないか・・・心臓が大きく高鳴る。


 滝壺は逃げ場がないので長期戦に持ち込んだ。竿を何回もなんかいも引いては切られそうになると手放した、そしてまた浮かんできた竿を拾う。

 1時間以上も経ったであろうか、水面に銀色の魚体が映った。何という巨大な魚であろう、正にこの「イワナ止めの滝」の主ともいえる大イワナであった。そして何時間かけ ても絶対に釣りあげてやると思った。ただ、もし針が浅くかかり外れてしまったら・・・という思いが頭をかけめぐる。


yyy 『Uボート』2


 「幻の大イワナ」のままで 

 それほどの時間をかけても中々釣り上げれそうもなかった。だがこの大イワナも疲れてきたのだろう底に引込むことをしなくなってきた。そこで意を決して近くの浅瀬に寄ったとき水に飛び込み強引に両手を使い岸に放り投げた。そして押さえ込んだ。なんという大きさだ、こんな怪物みたいな大イワナにはもう二度とめぐり会えないだろうと思った。

 釣りあげた興奮から醒めてくると、あれだけいつも大物・・おおもの!と騒いでいた私なのだが、この大イワナだけはこの後もここに棲んで居るべきではないかと考えた。

 記念の写真を撮り終え、まだ元気なうちにとリリースした。釣り仲間に話しても誰も信じないような「幻のイワナ」、60センチ以上もあったろうか。メージャーも無かったし、魚籠にも入らないサイズであった。

 私が所属している「釣り俱楽部」では年間をとおしての「大物賞」は、魚拓をとるのが約束事なので、今年もまたもらうことができないだろう。そしてまた「ホラの山本」と言われるだろう。だがもう大物賞なんかどうでもいいと思った。

 私だけが知っているあの滝壷で、大イワナは今もきっと何ごとも無かったようにゆったりと泳いでいるだろう。それを思うだけで私は満足だ・・・。


yyy 「幻の大イワナ」


 過ぎ去りし後悔の日々
 

 などと、かっこよく考えてリリースしたものの、帰り道ものすごく後悔した。あれほどの大イワナを持って帰ったら釣り仲間はきっと目をむいてビックリしたに違いない。魚拓か剥製にでもして、酒を一杯呑みながら毎日眺めるによかった。

 死ぬまで威張れたのに、などとくよくよ考えた。やはり私は聖人君子にはなれない。
 せめての救いは、「しるばにあっぷる」の記事にしようと写真を撮っていたことだ。これを見たらきっと皆んなは納得するに違いない・・・と思う。


 伝えきく滝壺に棲むまぼろしの
 巨大魚もとめ獣となりぬ   谿泉



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